アメリカの商人(あきんど)
アメリカのトランプ大統領は、日本は自動車を大きな船に乗せてアメリカに持ち込むが、日本は閉鎖市場でアメリカの車を買えないようにしていると非難する。たしかに、アメリカでは日本車がよく売れている。写真は15年ぶりにアメリカを訪れたとき、ヨセミテ公園(カリフォルニア)の駐車場で撮ったものである。GMの車が一台あるだけで、他は全て日本車であった。
アメリカの主張に対して、日本政府関係者は1980年代の認識だと反論する。1980年代には日米の間で自動車摩擦が起き、多くの日本の自動車メーカーが北米に工場を作った。自動車部品を作る会社に勤めていた私は、オハイオ州に工場を作る仕事に携わり度々日本とアメリカの間を往復した。工場が完成すると、自動車の町デトロイトに駐在し営業の仕事に携わることになった。
ある時、日本から上司が出張してきた。靴を買いたいというので、大きなショッピングモールの中にある老舗の靴屋に案内した。店の主人は、足のサイズを測り、店に倉庫に置いているいくつかの靴の中から、足にぴったりの靴を選び薦めた。それから一年ほど経った頃のことである。アメリカに来た上司が、もう一度靴屋に行きたいという。履き心地が良いから、さらに一足買いたいという。
店の主人は、一年前と同じようにサイズを測った。しかし、一年前とは少しサイズが違うようだった。主人は、「間違ったサイズの靴を薦めて申し訳なかった。」といって、一年前に支払った代金を返してくれた。店の名はJonston Murphyという。
デトロイト郊外のアパートの近くに洋服屋(テイラー)があった。腕が良いという評判のインド人の職人で、7年間のアメリカ駐在中に何着かの背広を仕立ててもらった。ある年のことである。柄物のシャツを誂えてもらった。出来上がったシャツを見ると、色の具合が注文したものと違うように思った。実際は私の思い違いであったが、テーラーは自分に非があるといって、料金を取らなかった。
アメリカの自動車メーカー、フォードは昨年日本市場から撤退した。それを日本は閉鎖市場だとトランプ大統領に訴えている。フォードは約100年前T型モデルという単一モデルだけを大量に作り消費者の売りつけて大きくなった会社である。それから時代は変わった。消費者の好みも変わった。それに合わせた車づくりが求められている。いくら政治的圧力にたよっても、会社は発展しない。是非、デトロイトの靴屋や洋服屋から「あきんどの精神」を学んでほしい。靴に足を合わせるのではなく、足に靴を合わせる考え方に替えて欲しいと思う。
(髙田 忍)
02/17/2017