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2017年(平成29年)3月28日 火曜日
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iPS「他家移植」を実施
03月28日 19時43分
特殊な免疫を持った他人のiPS細胞を使って、重い目の病気の患者を治療する「他家移植」と呼ばれるタイプの臨床研究を、神戸市の理化学研究所などの研究グループが、28日実施しました。
患者本人のiPS細胞を用いた前回の臨床研究に比べ、治療コストが大幅に抑えられ、再生医療の普及につながると期待されています。
臨床研究を行ったのは、▼神戸市の理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーと、▼神戸市立医療センター中央市民病院、それに、▼大阪大学と、▼京都大学の研究チームです。
京都大学の山中伸弥教授のグループが、あらかじめ作って保存していた拒絶反応をおこしにくい特殊な免疫を持った他人のiPS細胞で、眼の網膜の組織をつくり、兵庫県に住む「加齢黄斑変性」という重い目の病気の60代の男性に移植したということです。
移植は、28日午後、神戸中央市民病院で、網膜の組織を含んだ液体を注射する方法で行われました。
グループは、3年前の平成26年に患者本人から作製したiPS細胞を使った「自家移植」と呼ばれるタイプの手術を行いましたが、10か月以上の時間とおよそ1億円の費用が課題になっていました。
「他家移植」の手術では、コストなどが大幅に縮減できる可能性があり、iPS細胞を使った再生医療の普及につながると期待されています。
チームは今後、1年かけて、細胞のがん化や拒絶反応が起こっていないかなど、安全性を確認することにしています。
研究グループによりますと、手術は、28日の午後2時前に始まり、およそ1時間ほどで終了したということです。
午後6時から開かれた会見で、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーは、「手術のあとの拒絶反応があるかなどが大事なので、手術が終わっただけで成功したとはまだ言えないが、きょうの手術は、今後の治療にしていくための重要なステップとなる。今後、5人程度に同様の臨床研究を行い、その結果を慎重に見ていきたい」と話しました。
また、執刀した中央市民病院の栗本康夫眼科部長は、今回の網膜の組織を含んだ液体を注射する方法による手術について、「前回の細胞のシートを移植する方法に比べ、網膜を切るなどしなくてよいので、患者への負担がより少ない治療方法になるのではないか」と話していました。
今回、研究グループがiPS細胞を使った他家移植を行ったことについて、「関西黄斑変性友の会」の代表世話人の高田忍さんは、「病気の症状が進み、高額な注射による治療を続けている人ほど、iPS細胞による治療に期待している。今後、問題点が洗い出され、実用化される日が1日も早く来ることを望む」と話していました。
【他家移植とは】
理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーなどの研究グループでは、3年前の平成26年、iPS細胞を使った「自家移植」と呼ばれる世界初の臨床研究を行っています。
70代の加齢黄斑変性の女性患者に、患者本人の皮膚の細胞から作ったiPS細胞を網膜の組織に変化させて移植する臨床研究です。
その結果について研究グループは、今月論文を発表し、それによりますと、手術前は症状が進み、徐々に悪くなっていた患者の視力は、手術後、ほかの治療を行わなくても悪化が止まり、同じ視力を保てているということです。
また、移植した細胞のがん化や拒絶反応なども起きていないとして、「iPS細胞から作り出した網膜を移植する治療の安全性が示された」と結論づけています。
一方「自家移植」は、患者から細胞を採取してiPS細胞を作るため、患者が手術を同意してから移植までに10か月以上の時間と、およそ1億円の費用がかかったということです。
こうした課題を克服するため、今回は、あらかじめ作製されて保存されているiPS細胞を使う「他家移植」が行われました。
使われたのは、京都大学が4年前から始めているプロジェクト「iPS細胞ストック」で、保存していた細胞です。
このプロジェクトでは、日本赤十字社などを通じて、日本人の中にごくわずかにいる、拒絶反応を起こしにくいタイプの免疫を持つ人を探し出し、こうした人から提供された血液を使って作製したiPS細胞を保存し、研究用としてiPS細胞の提供しています。
他人に移植しても拒絶反応が起きにくく、自在に増やすことができて大勢の患者に使えるため、移植までの期間や費用が抑えられます。
【加齢黄斑変性とは】
「加齢黄斑変性」は目の難病で、国内の患者はおよそ70万人と推計されています。
目の網膜の中心部にある「黄斑」が加齢とともに傷ついて、視野の中心がゆがんだり欠けたりして、症状が進行すると視力が失われます。
患者に対しては、これまで薬剤を注射するなどして症状の進行を抑える治療が行われていますが、傷ついた部分を修復する効果はほとんど期待できず、根本的な治療法にはなっていません。
産経新聞 2017.3.28 21:10
http://www.sankei.com/west/news/170328/wst1703280071-n1.html
【他人のiPS細胞移植】
「これからが山頂への急峻な道」 実用化に向け表情引き締め
「これから山頂への急峻(きゅうしゅん)な道が続く」。28日、神戸市立医療センター中央市民病院で踏み切られた、他人由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)による目の病気の患者への移植手術。iPS細胞による再生医療の幅広い普及に向けた大きな一歩を踏み出した。理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーは手応えを語った一方、今後の検証の重要さを重ねて強調した。
手術はこの日、午後1時50分すぎから予定通り1時間で無事終了。手術後、同病院で記者会見した高橋氏は「他家移植の1例目がスタートした。(登山に例えれば)5合目くらい」と述べた。同席した同病院の執刀医、栗本康夫眼科部長も「手術が失敗すれば(これまでの積み重ねが)水泡に帰しかねない。特別な緊張感をもって臨んだ」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
ただ今後、5例程度の同様の手術を重ねた上で、最終的に効果の有無を判定する必要がある。臨床研究の行方次第ではiPS細胞を用いた再生医療そのものに影響を与える可能性もある。「ゴールは医師が普通に使える標準医療にすること」という高橋氏。「山頂への急峻な道が続いており、全く気は抜いていない」と表情を引き締めた。
加齢黄斑変性の患者は国内に70万人近くいるとされ、今回の臨床研究に期待を寄せる人は多い。関西に住む患者らでつくる「関西黄斑変性友の会」(大阪市)の星野龍一事務局長は「実用化に向けた第一歩といえる。患者にとって明るい兆しになると感じている」と述べた。同会の代表世話人で、滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性を患う高田忍さん(75)=兵庫県西宮市=は「実用化されても、費用面や安全性などの課題は残る。過大な期待はせず、早期発見や早期治療を促すことも重要だ」と話した。
神戸新聞 2017/3/28 23:09
https://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201703/0010044853.shtml
医療ニュース
「生きる希望の光だ」。兵庫県内の難病患者らは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った治療の確立へ強い期待を寄せた。
加齢黄斑変性の患者でつくる関西黄斑変性友の会代表世話人の高田忍さん(75)=西宮市=は、移植の臨床研究に参加を希望する多くの患者から相談を受ける。「重症化し失明を恐れる人には切実な問題。より安く、短時間でできる方法として実用化への期待は大きい」と話した。
別の病気の患者も臨床への応用を待つ。兵庫県網膜色素変性症協会の伊藤節代副会長(61)=神戸市兵庫区=は「同じ網膜の病気の私たちにも明るい知らせ。研究の成功を願っている」と注目する。
京都大では2018年度、パーキンソン病の患者に対して同様の手術が計画されている。全国パーキンソン病友の会兵庫県支部長の山本信行さん(76)=同市西区=は「研究は、症状が進行し日々落ち込む患者にとって希望の光。1日も早い治療法の確立につなげてほしい」と話した。(山路 進)