眼科を受診するときの心得
1. 加齢黄斑変性のチェック
加齢黄斑変性は「失明の怖れ」という言葉が枕詞のようにつく眼の病気です。そのため、早期発見早期治療が大切といわれています。早期に発見する方法は、片目で格子状のものを見ることです。一般にはアムスラーチャートで薦められていますが、一般家庭にあるわけではありません。障子の桟や台所のタイルでもチェックできます。
中央がかすんで見えるとか、障子の桟が歪んで見える場合は加齢黄斑変性の可能性があります。その場合は、直ちに眼科医の診察を受けましょう。
2. 眼科医の選定
どこの眼科医で診察と治療を受けるか。眼科医を選ぶにあたっては、インターネットで「加齢黄斑変性症の治療件数」で検索し、通院に便利な病院を選ぶ方法があります。あるいは、とりあえず近くの眼科医を訪ね、検査設備の整った病院を紹介してもらう方法もあります。ただし、白内障の治療件数などの実績の宣伝をしているところは避けた方がいいと思います。混雑していて待ち時間が長い所があります。
3.眼科医を受診する時
眼科医を訪ねるときは車を避け、公共交通機関を利用しましょう。出来れば家族の付き添いがあると安心です。なぜなら、受診した日に抗VEGF薬の注射をした後、眼帯をしなければならいからです。注射しない場合でも、検査のために瞳孔を開く眼薬を点すからです。
医師には、いつ頃からどのような症状(見え方)であったかをまとめておき的確に伝えることが大切です。
医師の患者に対する持ち時間は限られており、診察の時思い出しながら伝えるのでなく事前に伝えたい現在の症状など整理の上メモ書きしすべて的確に伝える患者側の努力がよりよい治療を受ける手立てになります。
4.検査について
医師が加齢黄斑変性の疑いがあると判断したときは、視力検査と眼圧検査の後に眼底検査、蛍光眼底造影、光干渉断層計検査などを行います。
視力検査は、誰でも経験があります。丸い輪のどの部分が空いているかを見えた通り答える自覚検査です。上下、左右で答えます。判断しにくい場合でも、一瞬目をつぶり開けた時に分かることがあります(涙が不足すると見えにくくなるため涙を補う)。リングがぼやけて見えていても大体空いている方向が分かればそれを答えます。視力検査の後、瞳孔を開く眼薬(散瞳剤)が点眼され、お薬が効くおおよそ20分後に眼底検査が行われます。
(1)眼底検査
眼底検査は赤い点を見つめながら行われます。かなりまぶしい検査です。瞬きしないようにと注意をされます。この検査では網膜の状態、特に黄斑を見ます。出血や血液中の水分が漏れて溜まっていないか、網膜がむくんでいないか、それらの原因になっている脈絡膜新生血管がないか、などを調べます。ただし眼底検査だけでは、新生血管の位置、大きさ、活動性を確定することはできません。
(2)蛍光眼底検査
診断確定と治療方針を決めるためには、蛍光眼底造影がとても大切です。造影剤を腕の静脈から注射し、造影剤が血液中を流れて眼内の新生血管に入ったときに写真を撮り、新生血管の位置や大きさ、活動性を調べます。造影剤にアレルギーがあったり、血圧が高いなど、造影剤が好ましくない病気がある場合には、この検査はできません。
そのため、承諾書にサインを求められます。
(3)OCT(光干渉断層計)検査
OCT(光干渉断層計)検査は赤い縦と横の線を見つめます。線は点滅しますが、多少の瞬きは問題ないようです。これは、眼底の断面を調べる断層検査です。新生血管の有無や形、大きさ、新生血管と中心窩との位置関係、網膜のむくみなどもわかります。数分で検査でき、造影剤も使いません。
萎縮型は進行がゆっくりで、治療法がないので、蛍光眼底造影や光干渉断層計を行わないこともあります。
5.治療方法
「萎縮型」の治療
治療は必要ないといわれています。ただし、「滲出型」に移行して急激に視力が低下することがあるので、定期的な検診が必要です。
「滲出型」の治療
抗VEGF療法という新生血管を沈静化させる薬を硝子体内に注射する方法が一般的です。
抗VEGF薬にはノバルティスファーマ社の「ルセンティス」とバイエル薬品の「アイリーア」があります。医療費はアイリーアの方が少し安いようです。医師はいずれかを選択して治療しますが、その理由を聞きましょう。
どんな病気でも、自分の病気の状態をよく知ることが大切です。内科で血液検査を受けたらそのデータをもらいます。それと同じように、眼科で検査を受けたら、眼底写真や断層写真をもらい、アルバムに貼っておくと症状の経過や治療の効果が確認できます。写真は医療機関によって有料のところもありますが。それほど高いものではありません。
カラー写真が眼底写真で、モノクロが断層写真です。眼底写真では、赤い部分が減っていることが一目瞭然で分かります。医師によっては、赤い部分や青い部分の質問をすると親切に説明してくれることがあります。医師とは、対等の立場で積極的に質問し納得した治療を受けたいものです。
その他にも、光に反応する薬剤を体内に注射し、それが新生血管に到達したときに弱いレーザーを照射し新生血管を破壊する「光線力学的療法」、新生血管をレーザーで焼く「光凝固法」などの新生血管を破壊することで黄斑へのダメージを食い止める外科的治療もあります。
光線力学療法の場合は、一泊入院の治療になるようです。抗VEGF薬の注射と光線力学療法が併用される場合もあります。
先進的な治療法としてiPS細胞の臨床研究が行われています。2019年4月に、理化学研究所で2017年から行われてきた5人の患者に対する臨床研究で安全性が確認されたとの発表がありました。実用化の日が来ることが期待されています。
6.診察と治療を終えて
抗VEGF薬の医療費は3割負担の場合、4万数千円、一割負担は一万数千円です。光線力学的療法の場合は十数万円かかります。
ただし高齢者の場合、高額療養費の自己負担限度額が定められています。必ずしも上記の額を窓口で支払うわけではありません。2019年8月の場合、一割負担の一般の人は、個人で18000円、所帯全体で57600円です。
領収書は必ず保管しておきましょう。一年間に支払った医療費が10万円を超える場合、確定申告すれば医療費控除の対象になります。タクシー代も控除対象になる場合があります。
抗VEGF薬の注射をした場合は、眼帯を付けるので足元が見えにくく、家族の付き添いがあると助かります。眼帯は翌日の朝まで着用し、感染予防のため三日間目薬を点します。
7.最後に
タバコは絶対に避けましょう。食べ物は緑黄色野菜を食べるとよいといわれています。これらにはルテインという成分が含まれています。黄斑部にあるルテインは、抗酸化作用やブルーライトの光を吸収するフィルターとなって私たちの目を守っています。
サプリメント(栄養補助食品)も、個人差がありますが効果があるといわれています。食物だけでは十分なルテインを摂取することが出来ません。これを補うために、サプリメントを飲んだ人は、飲んでいない人よりも加齢黄斑変性の発症率が少なく、病気の進行も25%抑えられたという報告があります。
(2019,11,11 髙田 忍)